前田普羅<3>(2021年1月)
<普羅3 前田普羅は「雪の詩人」>
辛夷社の地、北陸富山はいよいよ雪の季節になりました。前田普羅も雪の句を多く詠んでいます。主宰中坪達哉は、その著書『前田普羅その求道の詩魂』の「雪の俳句」(p18)で雪の名句を紹介しています。 この主宰が紹介した名句と、『辛夷』創刊号の選者である池内たけしの「仮に雪という句を作る場合にも東京にいても作れそうな雪の句は駄目である。北国らしい雪気分の句でなくてはならぬ。」という言葉(詳細はトップページより「辛夷」の歩みを参照)をもって、今回は、普羅の雪の句の格調の高さ、そして雪国らしい特色を詠み込んだ普羅の「地貌」の句の趣を味わっていただきたいと思います。
(抜粋)
普羅には、『雪』の絶唱が多い。中島杏子は、普羅を『雪の詩人』とも呼んでいる。
雪垂れて落ちず学校はじまれり
農具市深雪を踏みて固めけり
雪卸し能登見ゆるまで上りけり
小庭朝暮
山吹を埋めし雪と人知らず
これらの句には、雪国の人々が負う雪の重みが実感として詠み込まれている。
春雪の暫く降るや海の上
弥陀ヶ原漾ふばかり春の雪
天空と山海に束の間の交歓をもたらすかのように降る春の雪である。
また次の2句には、三冬を経た雪がもたらす巨大な力を感じる。
雪解川名山けづる響かな
国二つ呼びかひ落とす雪崩かな
そして、次の3句には、「只、静かに静かに、心ゆくままに、降りかかる大自然の力に身を打ちつけた」普羅の俳境が純化した宗教的な神韻さえ感じる。
雪山に雪の降り居る夕かな
奥白根かの世の雪をかがやかす
鳥落ちず深雪がかくす飛騨の国
以上、いかがでしたか。雪国の自然や生活を知る方々には共感や郷愁、そして雪国のことを知らなくても心で感じられる趣や雪世界の清浄さ、荘厳さ。普羅の句を味わっていただけましたでしょうか。
普羅の雪の句は、まだまだたくさんあります。主宰中坪は、上記の著書に普羅の雪の俳句の鑑賞を載せ、読者を普羅の世界へ誘います。それらも機会をみて紹介したいと思います。
ちなみに普羅は山吹の花が大好きだったようです。真っ白な雪の中に埋まって静かに春を待つ、その山吹の姿を感じている普羅。山吹と普羅と雪だけの秘密。花好きな方には、普羅が身近に感じられる句ではないでしょうか。