五岳集句抄
春風のやうな尼僧の遠会釈 | 藤 美 紀 |
白蓮の咲きさだまりて風の中 | 野 中 多佳子 |
葉桜やひとりの音を風が消す | 荒 田 眞智子 |
防災の丘に球蹴る春休み | 秋 葉 晴 耕 |
前山の裾より晴れて花の雲 | 浅 野 義 信 |
復興の瓦もなくて花の雨 | 太 田 硯 星 |
三椏の花咲き桐生の山匂ふ | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
後ろ髪結ひては解いて春愁 | 青 木 久仁女 |
チョコレート分け合ふ花の川べりに | 成 重 佐伊子 |
殖やしたる鉢も七つに菊根分 | 菅 野 桂 子 |
山門はいつも開けあり燕来る | 脇 坂 琉美子 |
前菜のとりどりの色スイートピー | 明 官 雅 子 |
重さうに雨の匂ひのさくら散る | 二 俣 れい子 |
花の奥玻璃千枚のビル光る | 岡 田 康 裕 |
ひと雨の雨きらきらと灌仏会 | 北 見 美智子 |
手に乗せて青き香りの春落葉 | 野 村 邦 翠 |
チンドンの音を持ち帰る花衣(城址公園) | 杉 本 恵 子 |
道づれの流鶯やがて文学館 | 石 黒 順 子 |
球根を植ゑし一角ふくらめり | 中 島 平 太 |
湯通しの菜はたちまちに春の色 | 浅 尾 京 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
千年桜には程遠くとも各地に見事な桜の古樹はある。上五を例えば古桜とすれば調べは整う。が、ごつごつした樹幹ならではの「目鼻立つ幹」を詠むには、桜古樹との堅苦しい語がいいのかも知れない。絵本にあるような目鼻のある老樹は優しい顔だが、掲句の樹幹の表情は仁王像の威嚇の相であろう。「花の雨」で落花もあれば大舞台で見えを切る表情にも。
<主宰鑑賞>
人間社会のエープリルフール、それが犬を相手の句であるという可笑しさも、どこか四月馬鹿のとぼけた感じに通じる読後感である。四月馬鹿の句としては異色と言えよう。犬を飼いながら犬の早起きに困っている話はよく聞く。が、犬から見れば「朝遅き主に説教」したいところ。鳴き声も大きく。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
いつも歩く堤なのであろう。四季折々の風光を楽しむこととなるが、とりわけ冬場から早春にかけては地味なようで存外に見どころもある。湿から乾へ、また白から緑へ、さらに静から動へと俳人の眼に映るものは数えようがない。「水溜り失せて春めく」香ばしいような堤の柔らかい感触が嬉しくもある。延々と続く「春めく堤」を歩きながら自然の力を吸収。
団子食ふつばくろの声聞きながら | 吉 野 恭 子 |
木々匂ふ昔来し道白日傘 | 谷 順 子 |
踏むまじと思へども草の芽あまた | 桑 田 ふみ子 |
春めくやバケツ溢るる水の影 | 畠 山 美 苗 |
目が合うて咄嗟に決めし子猫の名 | 稲 垣 喜 夫 |
春月のさしこむ家に独り住む | 沢 田 夏 子 |
語りたきひとを心に花の下 | 平 木 丈 子 |
老い知らず今日も明日も花見かな | 西 田 満寿子 |
書に倦みし机上の眼鏡春光返す | 出 村 禮 子 |
未満児の泣き声連鎖入園式 | 正 水 多嘉子 |
四月馬鹿何も起きずに日が暮れて | 島 美智子 |
聞き流すこと多くして遠柳 | 中 村 伸 子 |
囀のぴたりと止めば青信号 | 足 立 美也子 |
ランドセル大きく揺れて揚雲雀 | 多 田 康 子 |
蓬摘みかごいつぱいに背な温し | 西 出 朝 子 |
野遊びや捕まへぬやう園児追ひ | 小 峰 明 |
家の猫初木登りは白木蓮 | 石 原 朝 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。