俳句大会報告(令和3年度)

< 令和3年度辛夷三賞 >

◎辛夷賞  岡田 康裕

テレワーク窓の朝顔数へては
子ら居らぬ盆の築山掃きゐたり
帰り路は裏道とほる初詣
菜の花やローアングルにこだはりて
目交ひの磐根をつかみ沢若葉

◎辛夷賞  小澤 美子

病む頃の母の日記を秋灯
コンバイン唸りて墓の間際まで
雪吊の今年はつひにわが家のみ
花柄の杖違へずに堂余寒
春の夢醒めて羽化とはこのやうな

◎衆山皆響賞  猪羽 希美子

冬めくや我に擦り寄る裏の犬
退屈の果てに煮上ぐるおでんかな
春の土爪に残りて社印押す
竹林の風になじまぬ今年竹
あぢさゐや甘味処の忘れ傘

◎衆山皆響賞  磯野 くに子

しづもれる植田にごして動くもの
触れずとも膝を濡らせり芋の露
子等好む石の重さや蕪鮓
ノート這ふ春蚊を除けて今日終へし
院日永手首をまたも測りをり

◎奨励賞  坂本 善成

風に蜘蛛けはひを消して囲の真中
鬼覗き揺らすコスモス隠れん坊
誰も来ねば遺影の父母と初座敷
履きもせぬ革靴磨く万愚節
陽炎へる包(パオ)の群落旅の果

< 年次大会入賞作品  中坪達哉主宰選 >

天位菜を刻むも飯事めきし夏始木谷 美以
地位日除してかつて煙草を商へり浅尾 京子
朝顔の影の揺れゐる朝餉かな澤田  宏
人位児の問はいつも難し柿若葉宮川貴美子
ゴッホは黄を使ひ尽くして麦の秋漆間真由美
朝蟬や手扇で消す佛の灯石原 照子
特選忘れたきことを崩してかき氷民谷ふみ子
山の芋掘りて地蔵に頭下げ藤  美紀
暮れがての山引きよせて辛夷咲く東山美智子
花筏櫂の乱せし穴埋む道端  齊
森林浴ゆつくり歩けといつも妻中島 平太
歩かんと夏手袋を新しく野村 邦翠
母許にゐて投げ出してゐる素足かな水上 玲子
蜑小屋の開け放たれて土用浪野中多佳子
蜜豆を匙にのせては話変へ明官 雅子
母の絣バンダナにして汗を止め川渕田鶴子

< 立秋忌供養俳句大会 >

主宰吟馴染みたる羯諦羯諦響き立秋忌中坪 達哉
主宰特選句豪雨去り秋風塚のうしろまで二俣れい子
普羅忌賑やか馴染みの声も供花なども佐山久見子
経を読む踵に力喜雨激し二俣れい子
降り止みて塚に木立に秋の風橋本しげこ
立秋忌地の傾きに従へり川渕田鶴子
雨上がる塚の温もり立秋忌堺井 洋子
眼間に作句精神塚洗ふ澤田  宏
わたくし雨止んで普羅塚涼新た大谷こうき
互選天位雨吸うて吸うて普羅塚秋立てり杉本 恵子