五岳集句抄
通らせてもらふ寺領の梅真白 | 藤 美 紀 |
草青む手摺りスロープ自動ドア | 野 中 多佳子 |
寒雀の声が開いてゆく夜明け | 荒 田 眞智子 |
立春の空気入れ替ふ農機小屋 | 秋 葉 晴 耕 |
冴返る細き署名を写真展 | 浅 野 義 信 |
生け花の黄色にあふれ冬の果 | 太 田 硯 星 |
浅間噴く夜の寒雲に紅をさし | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
帰りには両手ふさがる午祭 | 青 木 久仁女 |
尺差の旧姓うすれ針まつる | 成 重 佐伊子 |
立春と告げて仏に鈴を打つ | 菅 野 桂 子 |
本堂掃除白息をつなぎつつ | 脇 坂 琉美子 |
初めから聞かれ湯豆腐崩れけり | 明 官 雅 子 |
積み上げし雪より漏るる工場の灯 | 二 俣 れい子 |
粕汁を吹く音ふたつ朝厨 | 岡 田 康 裕 |
病窓の富士夕あかね春近し | 北 見 美智子 |
可愛ゆしと見れば鳰鳥潜りけり | 野 村 邦 翠 |
亡き友にあふ白昼夢春炬燵 | 杉 本 恵 子 |
口遊む校歌の出だし雪の原 | 石 黒 順 子 |
寒林の声せつせつと道半ば | 中 島 平 太 |
初空の青ければふと地震のこと | 浅 尾 京 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
「裏道の古き教室」とあるが、現在のメイン道路が出来るまでは表通りだったのかも知れない。ミシンによる洋裁教室は多くあるが、昔からの和裁教室が続いているとは嬉しいこと。針納は針供養の傍題、針納の方が幾分か針を手にする感じがあろうか。「師匠」「針子」は昔のお話。佇まいは古くとも当世風の教室、和気藹藹と勤(いそ)しむ受講生たちの姿があろう。
<主宰鑑賞>
湯冷めしてから予定表を開くという。実際のところは予定表を眺めているうちに湯冷めしてしまった、ということかも知れない。俳句独特の言い回しである。いずれにしても予定があるのは良いこと。昔から「流水濁らず、忙人老いず」という。湯冷めした体を温めながら明日の防寒対策にも思いを。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
除雪機と山茶花の結果的な季重なりではなく、詠むべき対象そのものが季重なりの内容。山茶花の垣根に沿って人が押して行く除雪機。そのシューターからは放水のように雪が飛ぶ。そして運転者が雪を噴き上げながらも巧みに操作して山茶花の花を散らさないようにしている、と気付くのである。除雪機を使う急務にあって山茶花を愛でる余裕に拍手を送る。
早春の街に彩吐く百貨店 | 吉 田 秀 子 |
左義長の火入れ見むとて跳びもして | 永 井 淳 子 |
豪雪を知らずや山茶花花数多 | 井 上 すい子 |
冴返り深夜ラジオを聞き寝入る | 斉 藤 由美子 |
大寒や青空つづく気味わるさ | 今 野 ひろし |
ひと雨に雀の声も春めいて | 佐々木 京 子 |
妻逝きて一万日の古雛 | 那 須 美 言 |
如月や駅へと日向渡り行く | 田 村 ゆり子 |
雪折を枝折とたどる露天風呂 | 久 光 明 |
蠟梅の薄日に応え咲きぬべし | 吉 田 和 夫 |
竣工のマンション聳え冴返る | 久 郷 眞知子 |
日向から日だまりへ跳ぶ冬雀 | 大 池 國 介 |
冬帽のやつれて似合ひ街を歩す | 若 林 千 影 |
寒卵鶏小屋の在りし頃 | 飯 田 静 子 |
白湯を汲む早春の陽もかきまぜて | 宮 田 衛 |
葛湯練る昔の話聞くやうに | 金 谷 美 子 |
年賀状懐かしき日々甦る | 小 川 正 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。