五岳集句抄
極月や片目達磨を拭き申す | 藤 美 紀 |
切干の小鍋ひとつの煮炊きかな | 野 中 多佳子 |
母と写る写真増やして小春かな | 荒 田 眞智子 |
初冬の汽笛一声玻璃を打つ | 秋 葉 晴 耕 |
返り花沖待ち船へ日の当たる | 浅 野 義 信 |
子ら集ひ主役が藷の昼餉とや | 太 田 硯 星 |
山男笑顔と栗を持参せり | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
豊年や田圃アートの五穀米 | 青 木 久仁女 |
地震あとのシートをすべる紅葉かな | 成 重 佐伊子 |
大鯉の群れたる飛沫照紅葉 | 菅 野 桂 子 |
小春空きらきら蜘蛛の忘れ糸 | 脇 坂 琉美子 |
父の手に炊くほどもなき零余子かな | 明 官 雅 子 |
冬蝶と同じ日溜り庭手入れ | 二 俣 れい子 |
廃棄田もはや藪なり猪に罠 | 岡 田 康 裕 |
新豆腐包丁素直に受け入れて | 小 澤 美 子 |
茶の花や手にぽつてりと萩茶碗 | 北 見 美智子 |
夕顔の実が横たはる談話室 | 野 村 邦 翠 |
短日の干し物胸に夕茜 | 杉 本 恵 子 |
石蕗咲いて旅の仲間に晴れ女 | 石 黒 順 子 |
石蕗咲いて数を言い合ふ朝の卓 | 中 島 平 太 |
前籠に踊る食パン月明り | 浅 尾 京 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
泡立草は「秋の麒麟草」の別称であり、北アメリカ原産の帰化植物である背高泡立草とは別の物。が、今日では日本産の泡立草は顧みられず似ている背高泡立草が泡立草となってしまった感がある。背高泡立草はたちまちに群生して空き家を包み込んでしまう。そんな泡立草を不逞の輩のごとくに擬人化して空き家の庭を「たまり場と」していると興じている。
<主宰鑑賞>
持ち手の方、即ち頭の部分が小さなこけしとなっている「こけし耳掻き」。細工のない耳掻きを愛用する人には何とも愛らしい東北の匠の技を思わせようか。上五から中七へと一気に走るような調べからも、そうした気分がうかがえる。折からの鵙の鋭い鳴き声が、一層にこけしを親しげなものにする。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
動物たちの世界は弱肉強食。小鳥も、その例外という訳にはいかない。庭先に来て微小な種などを啄むのも、限りなく人間に近づいて鴉や鷹などから襲われにくくするためであろう。微小な種や虫が見える小鳥の目である。家人の動向は熟知しているに違いない。こちらが優しく見つめれば見つめるほどに、葉陰から窺っていた小鳥も次第に近くへ寄って来る。
新藁匂ふや母の膝のにほひに | 出 村 禮 子 |
秋夕焼買ひ物メモに書く俳句 | 柳 川 ひとみ |
木の実落つ眠られぬまま数かぞへ | 足 立 美也子 |
雁渡しフランス客船接岸す | 三 島 敏 |
秋の山祈りの古道笹猛き | 吉 田 和 夫 |
柿熟れて通る人みな見上げ行く | 浜 井 さなえ |
芋煮会三人分も大鍋で | 五十嵐 ゆみ子 |
赤蜻蛉止まりて打てぬパターの先 | 新 井 のぶ子 |
何時捥ぐや隣の柚子のことながら | 村 田 昇 治 |
木の実踏む山を下れる勢ひに | 永 野 睦 子 |
裸木を辛夷と友に教へけり | 八 田 幸 子 |
露天湯に女四代色葉散る | 寺 沙千子 |
里芋に触ること慣れ好きになり | 今 堀 富佐子 |
森深く行く手を閉ざす木の葉雨 | 西 田 満寿子 |
日の暮れて脚から先に冬に入る | 宮 田 衛 |
テーブルへカサリと落葉カフェテラス | 谷 中 小夜子 |
新米の粘り気強し碗の縁 | 船 見 慧 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。