辛夷草紙<57>(令和6年2月)

<草紙57>「 雪雫 」(富南辛夷句会便り)

 雪を被いた木々の枝先や葉先から雫が落ちる、雪雫だ。小鳥たちが雪雫の光る枝々を飛び交い、庭がはなやぐ。私は、椿や松の雪雫が好きだ。椿の枝先で少しずつ膨らんでいく水玉は、氷のように透きとおり、水色にも見える。そして、その雫は葉に、石に弾み、春の到来を喜ぶ童の声のようにも聞こえる。一方、松の雫は静かだ。松の細い葉先に宿った本当に小さな水玉のきらめきは、星のようにも見える。いよいよ春だ。

 さて、今月の句会は、アイゼン、正月、豆撒、梅、薄氷、春、春寒、雪解雫、春一番、野遊と、冬と春が混ざり合っていた。次の句会は、3月29日だが、発刊の時を迎えた『辛夷』創刊百周年記念号を手にして盛り上がることだろう。待ち遠しい。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。

  大空に弥陀ヶ原あり春曇

  梅白く藪にかくるる隣かな

  春寒し人熊笹の中を行く

康裕