五岳集句抄
古里に帰る近道木守柿 | 藤 美 紀 |
手を振れば仔犬尾を振る小春かな | 野 中 多佳子 |
赤子帰り膝の淋しき寒さかな | 荒 田 眞智子 |
短日や柱時計の遅れ癖 | 秋 葉 晴 耕 |
庭仕事の軍手のままに日向ぼこ | 浅 野 義 信 |
行列に会話の生まれ冬ぬくし | 太 田 硯 星 |
噴煙を纏ひ冬雲動かざる | 山 元 誠 |
青嶺集句抄
聴診器胸に背中に年つまる | 青 木 久仁女 |
氏神の公孫樹落葉に足とられ | 成 重 佐伊子 |
裾分けの銘菓に添へて柚子一つ | 菅 野 桂 子 |
キッチンの小さき鏡冬うらら | 脇 坂 琉美子 |
マフラー巻き茶房を出でて立ち話 | 明 官 雅 子 |
落葉掻く時をりのぞく日をまぜて | 二 俣 れい子 |
野良着さす柊の葉よ冬支度 | 岡 田 康 裕 |
春着譲る明るき色の衿添へて | 小 澤 美 子 |
朝日さす裸木に栗鼠あつまり来 | 北 見 美智子 |
朽ちゆくも松に香りや暮早し | 野 村 邦 翠 |
供花探すポインセチアに囲まれて | 杉 本 恵 子 |
海鼠煮をきゆつと嚙み締め明日の事 | 石 黒 順 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
「ひとくさり謡ひ」それから掃き出すという。何気ないようでいて、そこはかとない可笑しみが漂う。謡いの余韻に浸りながらの箒捌きも楽しそうに見えよう。能楽の句はこれまでも「初能や見所つんざく笛の音」「能果ててうつつに返る虫の声」など佳句多し。能は実は厳しい体幹運動である。小春日の陽光を背に庭を掃く姿は若々しく美しいものであろう。
<主宰鑑賞>
「紅葉散り敷く」と一気に流れ、後半の「幹の影淡きまで」と句またがりの七・五・五の調べである。それなりの大木であろう。横たわる幹の影に着眼、それも土ではなく散り敷く紅葉の上を走る影である。散り敷く嵩が増すほどに影は淡くなると写生が冴える。紅葉に染まり季節の移ろいを楽しむ。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
「園深く」とあって晩冬の堆く積もった落葉を思う。細くなった遊歩道を逸れて落葉散り敷く上を踏み進むのも楽しいもの。自らが踏む落葉の音と比べつつ「犬が踏む」音に耳を傾けている。人と犬の音の違いは言うまでもないが、犬が立てる音の刻々の違いにも興じているのであろう。樹種も多い木立の冬晴が続いて乾いた落葉が香り立つ拾い日和である。
耳元に猫の吐息や炬燵出す | 中 島 兎 女 |
着ぶくれて少し強気になりにけり | 吉 野 恭 子 |
オリオンを見に出る母も寝ねたれば | 山 腰 美佐子 |
祈ることいつの間に知る七五三 | 桑 田 ふみ子 |
遣つ付けの畝にも太き大根立つ | 釜 谷 春 雄 |
露座仏とおなじ日向の冬雀 | くろせ 行 雲 |
花無くも畑に舞ひ来し冬の蝶 | 木 本 彰 一 |
菊展に来てなほ入るる鋏かな | 稲 田 政 雄 |
誰か来よ狭庭の名園めく紅葉 | 砂 田 春 汀 |
乱れ字と余白も多し古日記 | 小 西 と み |
一服の世間話や大根引 | 小野田 裕 司 |
新米と大きく書いて送りけり | 根 田 勝 子 |
少しづつ体に聞いて年用意 | 金 谷 美 子 |
熊手持つ半袖シャツの力こぶ | 足 立 美也子 |
終電のホームに一人冬銀河 | 多 田 康 子 |
初雪の便りを聞いて布団干す | 小 川 正 子 |
雪囲梯子の歩く塀の内 | 永 野 睦 子 |
※上記、衆山皆響句抄の各句への<主宰鑑賞>は、俳誌『辛夷』の「鑑賞漫歩」に詳しく掲載されています。