辛夷草紙<55>(令和5年12月)

<草紙55>「 柿を捥ぐ」(富南辛夷句会便り)

 我が家の柿の木は、今が捥ぎごろだ。「柿日和」とも言える底抜けの青空に竿を突く。狙い目の柿を見つめていると空の青が濃くなり、藍色にも似てきた。今年は、柿の生り年にあたることにもよるが、昨年大きく下ろした枝に小枝が育ったこともあって、実をたくさんつけている。4、5個ついている小枝もある。熊よけ対策として「柿捥ぎ」が呼びかけられているので、せっせと捥ぐことにしよう。

  天蓋の柿をくぐりて猫車(ねこ)を押す   康裕 

  薬師岳超す天辺の柿もぎにけり       康裕

 さて、今月の投句の中で、目を引いたのは、冬の山道で見た、朴の冬木を蔓が締めつけている景や藤の実が枯れきって弾じけそうな景を詠んだ句だ。山を詠むのはなかなか難しいが、山での身近な気づきを掬い取った句は、読者を惹きつける。ここでは、投句を紹介できないので俳誌「辛夷」に載るのをお待ちいただきたい。

 投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より2句。

  舌端にやがて温まる柿の種

  真榊の濃緑燃ゆる冬の山

                            康裕