辛夷草紙<52>(令和5年9月)
<草紙52>「 夜明け 」(富南辛夷句会便り)
「さあ、来るぞ」太陽はまだ大日岳に隠れているが、徐々にその光を強くして、雲を茜色に染め上げていく。その夜明けの見事さは、毎日、違う。その日、その日の出会いなのだ。そして、大日岳の左肩に朝日が顔を出すやいなや、稲田に、刈田に、射るような光が走る。その神々しさに思わず「おう」と息を呑む。そして朝の光が満ち満ちて、ようやくあたりが落ち着き始めると、山に向かって思い切り深呼吸をして、身体をほぐす。
私の住まいから見ると、日の出は、東に向かって立つ私の左手方向、つまり北の端の毛勝山から剱岳、大日岳、雄山、そして南端となる薬師岳の山々の連なりからやって来る。私は1年じゅう最高に贅沢な時を過ごすことが出来るのだ。※「秋の夜明け」の写真は、「四季だより・秋」掲載
さて、句会では、極暑を詠んだ句は、まだ見られるものの秋の雲、秋風、稲、刈田、虫、松虫、秋の蝶などの句が多くなり、着実な秋の訪れが感じられた。
投句のあった季語に合わせて『前田普羅 季語別句集』より3句。
昼となく夜となく虫の来る障子
ひるがへる力も見ゆる秋の蝶
野の人の声を押し来る秋の風
康裕