前田普羅<30>(2023年4月)
< 普羅30 前田普羅の「鞦韆と小商人」>
今回は、普羅の「鞦韆と小商人」の句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p45) 鞦韆にしばし遊ぶや小商人
今日では「小商人(こあきんど)」という言葉も反って新鮮に響く。作句当時の大正末年あたりでは、さまざまな分野で僅かな元手による行商などの小商いが盛んであった。富山へ移住して間もない頃であり、柳行李を傍らに置いた「売薬さん」なども親しい存在であったろう。
たまたま子供たちも居ない日中であろう。歩き詰めによる疲れを癒す風でもない。「遊びし小商人」などとせず、「遊ぶや」と切るところに普羅の思いが籠る。「しばし遊ぶや」の哀しげな余韻が気になるのである。シュウセンの響きも冷たい。子供の頃への郷愁もないではないが、ブランコに軽く身を置いて漕ぐでも漕がぬでもない小商人の姿に、行く末に対する漠然とした不安を抱きながら日々流されている普羅自身を重ね合わせているようでもある。小商人を眺めても、その生きざまにまで思いを致す普羅であった。
後年、普羅は「越中に移り来りて相対したる濃厚なる自然味と、山岳の威容とは、次第に人生観、自然観に大いなる変化を起こし」と述べているが、そうした変化が兆しつつあった時期の滋味深い作品として読む。『普羅句集』所収。