五岳集句抄
ベランダに早も親しき初雀 | 藤 美 紀 |
二輪車で駆くる長坂夢はじめ | 野 中 多佳子 |
人日の明日より病衣指輪ぬく | 荒 田 眞智子 |
鉛筆を削り直せし去年今年 | 秋 葉 晴 耕 |
神棚へ冬至の光射しにけり | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
熱の子にいくたび引きし掛蒲団 | 青 木 久仁女 |
Yシャツの糊をきつめに年用意 | 太 田 硯 星 |
雪稜の風の強さを思ひけり | 山 元 誠 |
ショートケーキ二つひとりのクリスマス | 成 重 佐伊子 |
やはやはと海鼠を噛んで八十路越え | 菅 野 桂 子 |
新日記まづ来客の数書いて | 脇 坂 琉美子 |
膝掛を朝餉支度の腰に巻き | 明 官 雅 子 |
椀七つ並べ俎始めかな | 二 俣 れい子 |
大年の子の声数多家ふくる | 岡 田 康 裕 |
掃かれゆく冬蜂を目で追ひかけて | 小 澤 美 子 |
裏庭の寒さまとひて戻りけり | 北 見 美智子 |
鉢洗ふ師走の空へ飛沫上げ | 野 村 邦 翠 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
「大掃除」は昭和九年刊虚子編「新歳時記」では春三月、永い冬に閉じ込められた後の大掃除とある。が、今日の歳時記に大掃除は見当たらない。年末大掃除が一般的となったからか。「大掃除」を「煤払」「年用意」の傍題と読む。掲句は社寺か公民館などでの大掃除が浮かぶ。自ずから受持ちへと進んでの奉仕活動。地域社会のうるわしき暮しぶりがある。
<主宰鑑賞>
「われは杖」そして「冬蝶は藁」との対句により俳諧味がいや増す。「藁掴みをり」は、「藁をも掴む」の藁かと微苦笑を誘う。そんな冬蝶に寄せる心情というものを想う。ただ読後感としては決して沈んだ重くれたものではない。一句を貫く諧謔精神が窮状から反転、気持も前向きになっていよう。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
妣は時折り使われるが亡母を言う。おそらく普段が和装であった母上の時代、その愛用の足袋を今も履けるとは嬉しい。高度経済成長による大量消費社会へと移行して物を繕うという麗しい生活習慣は廃れていった。わけても「繕ひも懇ろ」なると妣を偲ぶところに親子の絆を思う。「妣の足袋温し」はすなわち「妣の心温し」でもあろう。履けばお守りの足袋。
ヘリコプター頭上に響く初詣 | 永 井 淳 子 |
冬日差す部屋の片隅読書かな | 小 川 浩 男 |
フジコヘミング総身に溢るる淑気かな | 那 須 美 言 |
雀らのとうに来てゐる初詣 | 馬 瀬 和 子 |
薺爪日当りも良き午前かな | 中 林 文 夫 |
喪を終へて不在二日の家寒し | 釜 谷 春 雄 |
日溜りが居どころ冬の蠅と我 | 山 森 利 平 |
知り尽くす汝が庭ならん初雀 | くろせ 行 雲 |
初夢の記憶たぐれば波の音 | 久 郷 眞知子 |
亡夫の傘さして買物時雨虹 | 松 原 暢 子 |
初夢に出でし人ありわけ思ふ | 中 川 正 次 |
留守居なる昼が淋しく毛糸編む | 小 西 と み |
除雪機の給油終へたり明日を待つ | 八 田 尚 子 |
初電話互ひの声を褒め合つて | 金 谷 美 子 |
中座後は英語で続く年忘れ | 立 花 千 鶴 |
餅焼きて待てず膨らみ逃したり | 船 見 慧 子 |
まじまじと見慣れぬお札お年玉 | 赤 江 有 松 |