辛夷句抄(令和5年1月号)

五岳集句抄

店で知るわが家の柿も捥ぎ時と今 村 良 靖
野分吹く佛間の奥の火焔土器藤   美 紀
風に鳴るピシリピシリと藤の実は野 中 多佳子
箸で追ふ椀の花麩や紅葉宿荒 田 眞智子
図書室に残るひとりに日短か秋 葉 晴 耕
銀杏踏みしことも日記の一行に浅 野 義 信

青嶺集句抄

山並みの抱きあふやう眠る山青 木 久仁女
手帳にはけふ虫の音の途絶えしと太 田 硯 星
診断にほつと山見る神無月山 元   誠
人形の着替への菊を浸しをり成 重 佐伊子
残菊のふくらみぐせの枝括る菅 野 桂 子
すすきはら野の風どもの鬼ごつこ脇 坂 琉美子
どんぐりの寄り合ふ凹みそこかしこ明 官 雅 子
青空の淋しき日なり枇杷の花二 俣 れい子
二人して夕日を見んと落葉掻く岡 田 康 裕
皮めくり祖母の熟柿は噛まずとも小 澤 美 子
落葉掃くまた独り言つぶやきて北 見 美智子
四五人の釣り糸垂れて黄鶺鴒野 村 邦 翠

高林集句抄

報恩講果てて月蝕すすむ帰路大 谷 こうき

  <主宰鑑賞> 
 皆既月蝕により赤銅色に染まった満月、その前段階の部分蝕からの二時間余りの天体ショーであった。掲句では「報恩講果てて」すなわち一昼夜法要の夜のお勤めの帰路に見上げる月蝕であるところに一段と趣きがある。砺波野の歴史や風土に根ざした暮らしぶりと、報恩講帰りの穏やかな心と優しい眼差しを思う。冬とは言え澄み渡る散居村の夜気の宜しさ。

小春日や癒ゆる兆しのまづ十歩中 村 玉 水

  <主宰鑑賞> 
 昔、保健体育の授業で十文字で健康を定義しなさいと言われ面食らった。答は「健康を意識しない状態」、なるほどと思った。かつては意識することがなかった「十歩」という歩み。それが今は実に嬉しい「まづ十歩」である。小春日の暖かい日差しが、治癒力の着実な発揮を応援し見守るようである。
  

衆山皆響句抄

別れ来て月の匂ひと言ふものを倉 沢 由 美

  <主宰鑑賞>
 「匂い」は美しい色合いや情趣をも言う含蓄のある言葉。仔細は知る由もないが、「別れ来て」に続く「月の匂ひ」は実に刺激的であり浪漫が駆り立てられる。別離の悲しみが月によって昇華されたか。「と言ふものを」との婉曲表現がいよいよ解釈の幅を広げる。余談だが、かぐや姫のモデルという古墳時代の王の娘のことなども空想したり楽しくなる読後感。)

秋祭へ刈られゆく草重たしと永 井 淳 子
指先の焚火の匂ひ夕勤行 藤 井 哲 尾
銀杏並木辻より黄葉移りゆく井 上 すい子
庭掃くや残る木の葉を見上げては 水 戸 華 代
堂内に陽の香を閉ぢて御取越廣 田 道 子
埋立ての畑にいつしか百日草 竹 脇 敬一郎
丑三つに飴なめてゐる咳地獄村 田 あさ女
冬めくや寄り道カフェの窓曇る佐々木 京 子
物産展訛も包み蕪買ふ高 岡 佳 子
鉢物の植ゑ替へもして文化の日佐 渡 稚 春
倒木の茸取らんとよぢ登る渡 辺 美和子
昨日より落葉踏む音広ごれり山 口 路 子
桜紅葉五色をまとひ風に舞ふ東 堂 圭 子
ひそやかに行けど鳴き止む虫の闇 杉 田 冨士子
発車待つ地下四階の風の色澤 田   宏
とき色の冬帽まぶか鳥気分佐 山 久見子
寒暁の遠征バスのいきれかな川 田 五 市

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