俳句大会報告(令和4年度)

< 令和4年度辛夷三賞 >

◎辛夷賞  北見 美智子

門火焚く雨が洗ひし石だたみ
ひと叢に風とどまりし花野かな
目をとぢて記憶のなかへ日向ぼこ
裏山の匂ふ一日よ春惜しむ
雨糸のきらきらとして夏灯

◎辛夷賞  野村 邦翠

もらひ風呂帰りは蛍追ひかけて
しあはせを拾ひしごとく掌に木の実
野良着干すやうやく石蕗の咲きし庭
鬼火見し話に子等は正座して
老桜道の崩れを一歩づつ

◎衆山皆響賞  浅尾 京子

病床の友は寝たるか窓の月
持ち上げて子の靴飛ばす羊雲
初夢の中でも煮炊き手を濡らし
木の根開く朝日に光る滑り台
春愁の皿を洗ふに音たてて

◎奨励賞  寺田 嶺子

縮布は母の形見や裄を出す
窓辺まで月の迫れる良夜かな
茶嫌ひの客も招きて宗易忌
未だ夫の手あと残りし垣手入れ
素袷に日差し程よく茶筅振る

< 年次大会入賞作品  中坪達哉主宰選 >

天位仏壇に風を廻(めぐ)らす扇風機秋葉 晴耕
地位車窓より桐の花追ふ一人旅田村ゆり子
校了のゲラの重さや大夕焼岡田 康裕
人位近道を抜けて帰省の靴よごす二俣れい子
田植機の音遠近に皿洗ふ倉沢 由美
まなかひの富士に抱かれて墓参る多賀紀代子
特選返す書の栞を正す暮の春中島 平太
人声に耳そばだてて水中花平井 弘美
片蔭の切れて二三歩急ぎ足今村 良靖
明日咲くか暫し触れもし山躑躅中林 文夫
羅を着て土弄りの手さらしけり民谷ふみ子
夢に来て父が根刮(ねこそ)ぎ二番草石黒 順子
板の間に背(せな)ひたひたとあいの風永井 淳子
仏壇のゲラにも閼伽(あか)を立秋忌山腰美佐子
飛騨涼し一泊分の化粧水菅野 桂子
夕立の通り過ぎしか臨書して水上 玲子

< 立秋忌供養俳句大会 >

主宰吟大空に目で書く一句立秋忌中坪 達哉
主宰特選句萎えやすき供華に水足す汗みづく 杉本 恵子
木斛の花散り残る普羅忌かな二俣れい子
立秋忌去年より歩幅小さくなり二俣れい子
供へたる茄子転がる塚の前川渕田鶴子
上り来て塚より眺む空は秋橋本しげこ
普羅塚を見上げ涼しき風もらふ岡田杜詩夫
塚訪へば生まれたてなる秋の雲岡田 康裕
香煙の風に絡まる立秋忌澤田  宏
互選天位水打ちて碑文艶めく普羅の塚川田 五市