前田普羅<25>(2022年11月)
< 普羅25 前田普羅の「旅人」>
今回は、普羅の漂泊への思いを、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p75) 旅人は休まずありく落葉の香
この句は不思議な位置付けの一句といえる。今日的には『飛驒紬』(昭和22年6月刊)所収として整理されているが、実はそれに先立つ昭和21年12月刊『春寒浅間山』の扉に、すなわち「序」の前頁に、染筆としての「旅人は休まずありく落葉の香 普羅」が掲げられているのである。畢竟、普羅の生涯を貫く「休まずありく」なのであろう。
「旅人」は普羅自身と捉えてよいであろう。普羅には、「旅人にねぎらい顔や麦叩き」「旅人に机定まり年暮るる」「旅人にやがて淋しき清水かな」のように自らを「旅人」と呼ぶ句が少なくはない。富山を永住の地と決めた普羅であったが、その本性は風狂の徒としての漂泊を抑えがたき心であったと思われる。「休まずありく」は頑健さの表れでもなんでもない。漂泊精神の発露による、おのずからなる哀しい歩みである。「歩く」を平安時代の女流調である「ありく」と好んで詠んだのも普羅作品の特徴である。この句に沈鬱さが見えないのは、調べの軽やかさと結びの「落葉の香」の働きによろう。陽光の中で香り立つ落葉、その幾重にも重なり合った色彩の綾なども、歩を急ぐ足元を飾ってくれている。