五岳集句抄
避け損ね踏んでしまひし草の花 | 今 村 良 靖 |
神鈴の音のかすかや萩の風 | 藤 美 紀 |
点滴の針差し直す極暑かな | 野 中 多佳子 |
魚湧く星湧く故郷秋の声 | 荒 田 眞智子 |
足投げて写生の子らや山葡萄 | 秋 葉 晴 耕 |
つづれさせ間近く床を延べてをり | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
青年の真赤なザック広島忌 | 青 木 久仁女 |
読む順に並べてをりぬ夜半の秋 | 太 田 硯 星 |
リハビリの散歩励ます虫の声 | 山 元 誠 |
突けとぞ小玉西瓜の水舟に | 成 重 佐伊子 |
霧に浮くホテルの屋根を目指しけり(立山) | 菅 野 桂 子 |
新涼をきらりと返すイヤリング | 脇 坂 琉美子 |
満月や白滝もよく味染みて | 明 官 雅 子 |
きのふけふ雨が洗ひし墓洗ふ | 二 俣 れい子 |
手づかみの蛇の弾力今もなほ | 岡 田 康 裕 |
墓まではあとひと息と草紅葉 | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
一読、心地よく流れる調べに復誦する。「野に立てば」からは過疎とか限界集落といった沈んだ雰囲気は全く感じられない。また「さながら故郷」も好意的で郷愁にかられる気分である。野原に繁茂する赤のままは丈もある。分け入るまでもなく野の沖に見えているものは何か。タイムスリップした少女時代、否、青春期の自分がこちらへ向かって歩いて来るか。
<主宰鑑賞>
待宵には明日の名月を待つのみならず十六夜、立待月と続く二十日月までの期待感も籠ろう。日本情緒の「待宵」と「ハッピーエンド」との取合せが鮮やか。ハッピーエンドの映画を見終えて小望月を見る、これ以上の月の待ち方があろうか。夜々の月に先立ち毎夜違う映画を鑑賞、やってみる価値あり。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
季語は「鰯」として分類されようが、指で裂いた鰯の膾をいう「裂膾」の季語もある。実質的には後者の句とも言えようか。鰯の頭を切り落とし、親指を食い込ませて尾の方へ裂いて骨をとる。ここでの「太き親指」の働きが物を言う。それが「母に似し太き親指」とあって母親譲りの手際の良さがうかがえて一句に深みが出て来る。鰯を詠んで母恋の一句。
さりげなく着こなすことも秋袷 | 浅 尾 京 子 |
遠目には供花新しき盆の墓 | 西 山 仙 翁 |
ままごとの母さん忙し赤まんま | 川 渕 田鶴子 |
夏のれんゆれてランチの客を呼ぶ | 松 原 暢 子 |
ソケットに電球つけて祭待つ | 中 川 正 次 |
家に居る時は老人秋簾 | 砂 田 春 汀 |
草紅葉折り返すには惜しけれど | 平 木 美枝子 |
大根蒔く新種の畝は丁寧に | 今 井 久美子 |
一面の稗の穂抜きて顔に傷 | 堺 井 洋 子 |
ベランダにひとり雲追ふ秋うらら | 根 田 勝 子 |
坊守らしき時鐘のひびき秋の朝 | 武 内 稔 |
台風や備へついでに物を捨て | 那 須 美 言 |
足元をくすぐる風の野紺菊 | 寺 崎 和 美 |
萩の風さらりと話題かへてゆく | 馬 瀬 和 子 |
猛暑日の真昼市電にわれひとり | 練 合 澄 子 |
今朝秋の空の捉へる高嶺かな | 黒 瀬 行 雲 |
妻もまた父母の手すりを秋の朝 | 北 川 直 子 |