前田普羅<22>(2022年8月)
< 普羅22 前田普羅の自然詠④>
今回は、能登半島の「地貌」の句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。
(抜粋p77) 暁の蝉がきこゆる岬かな
昭和9年刊『新訂普羅句集』には同7年作として「暁の蝉が聞ゆる岬かな」の形で載っている。それが同25年刊『能登蒼し』で再録されて掲句のとおり「きこゆる」となっている。『能登蒼し』への再採は、越中の氷見海岸での作とはいうものの、そこはもう能登半島の付け根ともいうべき地であるからである。「岬かな」の岬とは、今では能登立山シーサイドラインとして観光バスが絶えない、その海岸線の最も富山湾に突き出ている断崖の岬である。その岬にある宇波村からは沖合いの鰤の定置網の形もはっきりと眺めることができる。が、何よりも富山湾の大きな湾曲によって生じる、海に浮かぶ立山連峰の神々しい姿である。そうした暁の大パノラマに天から降ってくるような蝉の鳴き声である。
ところで手元にある軸では「蝉が」が「蝉の」とある。もう一つ軸があって、これには「啼きゐる岬かな」とある。年月の記載がない染筆のことではあるが、明らかに「啼きゐる」を推敲しての「きこゆる」であろう。染筆しながらも推敲し続けている普羅の句作を垣間見たようで、普羅をより身近に感じるような嬉しい気分にもなる。