五岳集句抄
塗り替へし壁に日差しや枯蟷螂 | 今 村 良 靖 |
一茶忌の書架に人佇つ神田街 | 藤 美 紀 |
外套を胸に抱きしめ通夜の座に | 野 中 多佳子 |
病みてなほそこに人の輪室の花 | 荒 田 眞智子 |
息白く時をり鍬を持ち直す | 秋 葉 晴 耕 |
青竹も二三村社の雪囲 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
室の花話し相手の欲しき午後 | 青 木 久仁女 |
寒椿落つやあの日のあの言葉 | 太 田 硯 星 |
分骨の兄の軽さよ秋寒し | 山 元 誠 |
病窓の山雲を被て深ねむり | 成 重 佐伊子 |
満天星の落葉や庭の掃き仕舞 | 菅 野 桂 子 |
山茶花の咲きつぐ庭を月渡る | 脇 坂 琉美子 |
葱の香の父の怒りを収めけり | 明 官 雅 子 |
着ぶくれてシートベルトの見つからず | 二 俣 れい子 |
辞去したり縁に茶の花陰りきて | 岡 田 康 裕 |
甘露煮の金柑添へて昆布締 | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
初冬の景色を彩る石蕗の花、それがどうしたことか中々咲いてくれなかったのである。他所ではもう咲いているから気になって当然。今か今かと庭を眺めても全く咲く気配がなかったが、野良着を干しながら何気なく見遣った先に何と咲いているではないか。不意をつかれたような驚きと嬉しさが思われる。「やうやく咲きし」の理由を石蕗に聞いてみたいが。
<主宰鑑賞>
よく馴染んだ寺院や会館ではなく教会とあって「葬のあとらしき」という表現に引かれるものがある。普段から目にしている教会か。入口辺りに漂う雰囲気、そして出入りの人の所作にも常の礼拝とは違ったものを感じるのであろう。十二月という慌ただしい時季との違和感もあるような佇まいか。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
レデイースは少なくとも四種類ぐらいのマフラーの巻き方を楽しんでいるらしい。いや、もっとか。時々の気分や状況、そして演出効果を考えての選択であることは言うまでもない。そういう意味では「巻き方変へて待ち合はす」とは実に鑑賞の幅を広げてくれよう。どう味わうかで心理テストをされているような感じも。その時の気持でも異なろうから面白い。
長篇に栞のごとく木の葉髪 | 吉 田 秀 子 |
布を噛むファスナー宥め着膨れて | 谷 順 子 |
大伽藍のほのかな灯り冬構 | 山 口 路 子 |
着ぶくれてちと清貧の心地かな | 黒 瀬 行 雲 |
柿を剥くふるさとの道なぞるやう | 長谷川 静 子 |
トタン塗る秋の日暮をなひまぜて | 山 藤 登 |
襟巻は外さぬままのワインバー | 中 島 兎 女 |
落葉敷く坂道を行く車椅子 | 上 杉 きよみ |
試歩の杜時雨逃れのそば処 | 稲 田 政 雄 |
たまりたる録画流して日向ぼこ | 小野田 裕 司 |
落葉して他人行儀の木となりぬ | 金 谷 美 子 |
ポケットに残る旅の香冬深し | 山 森 美津子 |
頰被むすびなほして一仕事 | 武 内 稔 |
ひしめきて地にはこぼれず冬銀河 | 佐々木 京 子 |
黒豆を詰めて仕上げの節料理 | 足 立 美也子 |
泊まる子の数を並べて行火かな | 赤 江 有 松 |
秋高ししまひ洗ひの背番号 | 船 見 慧 子 |