五岳集句抄
伝説の井戸の辺寂し狂ひ花 | 今 村 良 靖 |
枯葉舞ふ箱根旧道野猿吠ゆ | 藤 美 紀 |
テーラーの肩に巻尺冬ぬくし | 野 中 多佳子 |
丸顔のますます丸く冬帽子 | 荒 田 眞智子 |
冬うらら爺が押し手の車椅子 | 秋 葉 晴 耕 |
鴎翔ぶ釣瓶落としの陽の中を | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
頂へ序奏からまつ落葉踏む | 青 木 久仁女 |
やうやくに旅一つ得て秋惜しむ | 太 田 硯 星 |
水澄みて大気の動きまで映し | 山 元 誠 |
縁の下に棲みつく猫や浜小春 | 成 重 佐伊子 |
さつきから百舌の視線に枝を刈る | 菅 野 桂 子 |
コスモスを刈るコスモスに埋もれて | 脇 坂 琉美子 |
花八手すぐに見つかるかくれんぼ | 明 官 雅 子 |
抜け道のぬかるみ踏むや初もみぢ | 二 俣 れい子 |
荒縄のぬくみを捌き冬構へ | 岡 田 康 裕 |
捥ぎたての柚子の肌の湿りかな | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
大概は野や山などを眺めたりして深まり行く秋を実感するものである。それが「マンションの小窓に」感じていることに驚く。窓も「小窓に」である。通風や明り取りも考慮した小窓があって、そこが存外に外の景色が見える額縁のようになっているものか。大きな窓とはひと味もふた味も異なる洒落た景観が切り取られていて通るたびに楽しむのであろう。
<主宰鑑賞>
この頃は柿を捥ぐ人も減って木守柿も珍しくなって来ただけに何とも嬉しい光景が詠まれている。鳥に食われていないか朽ちて落ちていないか、と梢を仰ぎ通る日々が続く。小買物に出ることも億劫ではなくなり足取りも幾らか軽やかに。この時季のささやかな風物詩として季節の移ろいを楽しむ。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
明らかに秋に見られる羊雲だが季語の中にはない。似通う鱗雲が季語となっているから足りる、という訳でもなかろうが。羊雲は鱗雲よりも低いために雲片は大きく見える。いわゆる「高い高い」をしたら喜んだ幼子の靴が飛んで行ったという幸福感に満ちた掲句としては、「鱗雲」や「鰯雲」よりも「羊雲」の方がより一層童話的な可愛い雰囲気が出ようか。
庭薄日掃き跡著く冬に入る | 橋 本 しげこ |
初柿や林檎はうかと食べてゐて | 井 上 すい子 |
年用意こころの垢も拭ひけり | 那 須 美 言 |
塩加減に一家言あり衣被 | 久 光 明 |
久々の銀河に命尋ねけり | 細 野 周 八 |
お下がりの季寄せ馴染みて秋灯し | 民 谷 ふみ子 |
若者も行く秋語り歩きをり | 今 堀 富佐子 |
雪吊の縄からまりて一休み | 水 上 美 之 |
海に青空に青あり秋の青 | 今 井 久 雄 |
花野晴れ送る宛無き写メールを | 東 海 さ ち |
秋日差し拾ひて二人歩み寄る | 粂 千鶴子 |
時雨なる庭を眺めてひと日過ぐ | 竹 脇 敬一郎 |
独り居も御仏供にと炊く栗ごはん | 木 谷 美 以 |
傾きし秋日めがけて竿を振る | 勝 守 征 夫 |
踏切に貉の目玉光る宵 | 柳 川 ひとみ |
コスモスのやさしき風に触れてみる | 宮 川 貴美子 |
満月やただそれだけで心充ち | 小 川 正 子 |