五岳集句抄
病葉を払うてやりぬ子規の句碑 | 今 村 良 靖 |
まばたきに妻の意を汲む白木槿 | 但 田 長 穂 |
木の葉木菟遠し写経の墨をつぐ | 藤 美 紀 |
ひぐらしや飯盒浸す渓の水 | 野 中 多佳子 |
ほろほろと晩夏の風や川光る | 荒 田 眞智子 |
棟梁のねぢり鉢巻炎天下 | 秋 葉 晴 耕 |
昼日中算盤塾の音涼し | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
秋の土ほろほろ解(ほぐ)す掌 | 青 木 久仁女 |
緑蔭や充電にまだもう少し | 太 田 硯 星 |
天覆ふ雲に驚く昼寝覚 | 山 元 誠 |
姥堂の磴に弾みて青胡桃 | 成 重 佐伊子 |
浜昼顔ほこりを立ててバス来たる | 菅 野 桂 子 |
あかときの大気掬ひて墓洗ふ | 脇 坂 琉美子 |
乗り合はす椰子の木柄の半ズボン | 明 官 雅 子 |
踏切の開いてひとりの夜涼かな | 二 俣 れい子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
精霊の迎火、送火を総称した「門火」、傍題の「門火焚く」。一読、いずれの火を感じられるか。「苧殻焚く」「苧殻火」の傍題もあるが、各地で焚くものは様々。ここでは何であろう。「雨が洗ひし石だたみ」に映る門火の透き通るような火影を想う。人の動きや故人への思いなどを消した徹底した省略による静謐極まりない世界が反って幽冥界の近さを想わせる。
<主宰鑑賞>
「草の花」の本意は何によらず秋咲く花をいう。すなわち名のある花も含むが、萩や葛など多くが立項されているため概ね名の知れぬ草として詠む。「手入れもいらず」からは荒れた草叢となることなく野趣に富んだ眺めが想われる。庭でありながらも美しい花野の風を感じるところに味わいがある。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
ピリリと鳴くので辛い山椒を食べた鳥として「山椒喰」の名がある。姿は白鶺鴒に似る。春季とする歳時記が多いが山谷春潮「野鳥歳時記」では夏季。各種の国語辞書では「夏鳥として山地にみられ」と説明しつつ季語は春としていて面白い。実際は平地でも見かける。仮に季語の鳥を置き換えたらどうか。籠りを慰める山椒喰を駆逐する鳥はなさそうである。
やさしさの足りぬ此の頃合歓の花 | 吉 野 恭 子 |
入院し炎暑も五輪も知らぬまま | 金 子 喜久子 |
蜘蛛も網も小さきも獲物三つばかり | 井 上 すい子 |
残暑かな麺ひと握り湯に放ち | 紺 谷 郁 子 |
売れ筋は秋刀魚定食券売機 | 足 立 美也子 |
夜濯の水にやすらぐ書に倦みて | あらた あきら |
かなかなや兄弟けんかをさまりて | 坂 本 昌 恵 |
野球帽夏帽子とし畑仕事 | 大 池 國 介 |
避難指示盆の最中にレベル3 | 東 堂 圭 子 |
夏木立一と日降る雨真つ直ぐに | 大 塚 諄 子 |
古団扇持ちかへて風あらたなる | 砂 田 春 汀 |
盆用意読み終へぬまま図書館へ | 石 附 照 子 |
白百合に余りし水を青空へ | 沢 田 夏 子 |
玄関にありし空蝉何処へと | 長 久 尚 |
墓参り母より老いて母恋し | 山 田 ゆう子 |
誘導の強き陽見つめ向日葵よ | 大 嶋 宏 子 |
梅雨晴や猫は縄張り巡りゐて | 小 峰 明 |