五岳集句抄
乱れては立て直しては蟻の道 | 今 村 良 靖 |
草虱つけたるままの地下茶房 | 但 田 長 穂 |
折鶴の折目ゆるびて梅雨の明け | 藤 美 紀 |
ゆふづつや卓片寄せて海の家 | 野 中 多佳子 |
日焼せし人の大きなスニーカー | 荒 田 眞智子 |
落雷や九十九里浜波ばかり | 秋 葉 晴 耕 |
欄干に朝の冷たさ花菖蒲 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
夏至今日の東に西に陽を拝す | 青 木 久仁女 |
遅参との電話はトマト畑より | 太 田 硯 星 |
寂しさは夏炉の側なる囲碁盤に | 山 元 誠 |
沢べりの径ゆづり合ふ螢の夜 | 成 重 佐伊子 |
あるだけの布巾漂白濃紫陽花 | 菅 野 桂 子 |
ほうたるへ連れ立つことも夕餉終へ | 脇 坂 琉美子 |
噴水のここら正面待合せ | 明 官 雅 子 |
凌霄や庭にベンチを置く空き家 | 二 俣 れい子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
農村部を中心とした貰い風呂も、高度経済成長期以降は次第に見られなくなった。大概は薪で焚いた五右衛門風呂であり、その頃は外に出れば当たり前のように蛍が舞っていた。時間がゆったりと流れて人は助け合って暮らしていた。そんな懐かしい時代の一コマを活写するような回想の吟であろう。思い起こすことも楽しく民俗学的にも貴重な記録と言える。
<主宰鑑賞>
一読、微苦笑を誘われつつも共感される方も多かろう。「余生おほかた」は誇張ではあろうが、そうも言いたくなる思いが伝わってくる。体調と相談しながら行えば草の百態も見えてきて面白いし、草を根こそぎ引いたときの快感、達成感もある。何時しか自分の心と向き合う大事な時間ともなるか。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
軽くて肌ざわりも良い「縮」「縮布」である。練った皺の風合に何とも癒しを感じる。「母の形見」とあって御守りのような思いで大事に着たいのである。「裄を出す」という言葉も現代の暮らしにあっては懐かしい響きがある。肩幅や袖幅の違いの程を改めて感じながら母上のお元気な頃の立ち居が思い起こされることであろう。颯爽と着こなした縮布は日本の美。
ワクチンを打ちし腕振り青田へと | 藤 井 哲 尾 |
未だしと思へど茗荷の子を探す | 出 村 禮 子 |
先づビール二本目少し余し酒 | 武 内 稔 |
木道をゆつくり踏んで歩荷来る | 村 田 あさ女 |
兜虫輝き合ひて青き空 | 小 川 浩 男 |
病名は聞かずメロンを送りけり | 東 山 美智子 |
冷奴流れのやうに盛つて見る | 馬 瀬 和 子 |
餌欲しき猫の視線は冷蔵庫 | 練 合 澄 子 |
歩くより休める時間夏木蔭 | 発 田 悦 造 |
昼顔は嫌ひ何時でも待ちぼうけ | 中 島 兎 女 |
お着き菓子紫陽花色の金平糖 | 内 田 慧 |
初茄子の焼き上がるかや和讃果つ | 澤 田 宏 |
青田風仏間へ通し忌を修す | 源 通 ゆきみ |
かたつむりきのふは葉裏けふ表 | 水 上 美 之 |
主似で蜥蜴代々顔見知り | 久 光 明 |
目にとまる風鈴求む涼を手に | 神 田 雅 子 |
大橋を日傘で風と渡りゆく | 栄 牧 子 |