辛夷草紙<20>(令和3年8月)

<草紙20>白鼻心(はくびしん)(富南辛夷句会便り)

 7月の句会では、梅雨、蚊帳、アカシアの花、日焼け止め、大蛾、クレマチス、あめんぼう、竹の子、白靴、夏手袋、空蝉などの多彩な夏と、西瓜、朝顔などの秋が顔を覗かせていた。コロナ禍の外出自粛のためか、身ほとりの句材が多い。出句の中に「白鼻心」が登場した。この句会では、初めてのように思う。白鼻心は、暗がりで見ると狸かと思うが、ジャコウネコ科で夜行性。名前は鼻筋に白いラインが入っているのが由来。この句会の上滝地区の山手では十年ほど前から、ぽつぽつとトウモロコシ、西瓜などの被害を耳にしていた。本来は山の木の上で生活するようだが、最近は廃屋、寺社の屋根裏などに侵入し、棲み着く話も多く聞く。

 さて、句に登場した白鼻心は、西瓜の食べごろを見事に嗅ぎ当てたとの句。「いよいよ明日収穫」と思っていたその夜に被害にあった。白鼻心は、食い散らかすことなくきれいに食べて、満腹になれば残して行くという。被害に遭った作者は「おいしいと綺麗に食べてくれれば、怒りはあるものの、まあ許せるかな」とのこと。一つだけ良いことがあったという。食べ残した西瓜に大きな甲虫がいくつも来ていて、お孫さんが大喜びしたとか。ここ上滝地区の畑は、猿害は常態化し、次に熊が加わり、続いて白鼻心が加わった。野生動物との共生を考える時期なのだろう。

康裕