前田普羅<24>(2022年10月)

< 普羅24 前田普羅と「小さな生き物」>

 今回は、普羅の見つめる「小さな生き物」の句を、主宰中坪達哉の著書『前田普羅 その求道の詩魂』より紹介します。

(抜粋p80)  蟷螂の怒りて草を落ちにけり

 昭和21年の作にて丁寧な前書きがある。「9月7日北陸荘句会。此の日廣島雲山君より刻石届く、著者検印とす」というものだが、一句の内容には関係ない。たまたま記録に留めたいことがあって句に添える、その種の前書きの典型的な例である。
 一読、若き時代の句のような、社会の非条理や矛盾に苦悶した自らを赤裸々に詠んだような雰囲気もあるが、昭和21年といえば普羅も還暦を過ぎている。さすがに「人殺す我かも知らず飛ぶ蛍」のような句でもなかろう。「蟷螂」の真に迫った写生句のようでもある。が、「蟷螂の怒りて」は、蟷螂の姿を借りた普羅自身のこころのようにも思えてくる。そう解釈したいがための深読みに過ぎるかも知れないが。
 それはさておき、蟷螂のような小さな生き物を見守る普羅の俳句世界についても触れなければならない。それは、「膝折れの蛼も啼け十三夜」「かへり来て顔みな同じ秋の蜂」「梅雨の蝶たかく揚りて風に遭ふ」「葭切や郭公や梅雨の風に飛ぶ」などというもの。そこには、小さないのちの在り様を思い、その営みの世界に埋没している普羅がいる。

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