五岳集句抄
行き先でマスクの種類選びけり | 今 村 良 靖 |
雲間より朝の日矢差す崖氷柱 | 藤 美 紀 |
母の足袋日のあるうちと縁に干し | 野 中 多佳子 |
ほどなくも話とぎれて餅を焼く | 荒 田 眞智子 |
餅を切る飢餓なき世界念じつつ | 秋 葉 晴 耕 |
コロナ禍の街マフラーに顔埋めて | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
初座敷白磁の色香ただよひぬ | 青 木 久仁女 |
買ひ遅れやけに大きな注連飾る | 太 田 硯 星 |
ボトルには古き友の名年惜しむ | 山 元 誠 |
厚着して「おわら」けいこに交じりをり | 成 重 佐伊子 |
幾筋か笊に七種流すまじ | 菅 野 桂 子 |
いよよ雪むかへ撃つ気の老二人 | 脇 坂 琉美子 |
独り碁の父のそびらの白障子 | 明 官 雅 子 |
やはらかに柚子とふやけて仕舞風呂 | 二 俣 れい子 |
釘頭一分浮かせて冬構へ | 岡 田 康 裕 |
手作りの手毬と独楽を脇床へ | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
通いなれた野道の旧知とも言うべき「野の仏」であろう。かつて吉田拓郎が作曲して自らも歌い、南こうせつが歌った「野の仏」という曲を思う。作詞は岡本おさみで仏さまの表情を楽しく見つめたものである。対して恵子さんの句は「寒き日は寒き顔して」と自らの思いが野仏の表情となっているような味わいがある。寒さを分かち合い、気を引き締めるか。
<主宰鑑賞>
革ジャンパーは毛衣の傍題、約(つづ)めて革ジャン。レザージャケットとも。「怒り肩」からは肩にプロテクターがあるオートバイに乗る人たちでお馴染みのライダースジャケットであろう。普段はそう意識しないが、「古着屋の壁」に掛かると「怒り肩」と見える面白さ。古着となっても野性的な革ジャン。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
まことに豪放にして痛快なる一句である。が、その流麗な調べによって結句から再び上の句へと戻って「雪晴の空流し込む」が実感に裏打ちされたものと思えてくる。句の勢いも動態からか。ジョギングの調子も良く力強い走りとなった頃であろう。額に胸に「雪晴の空」がいよいよ迫って来る。「胸の底」に溜まる大気を、否「雪晴の空」を感じるのである。
人絶えし神社の灯り大晦日 | 鍋 田 恭 子 |
また仕舞ふ亡夫のセーター吾が手編 | 松 原 暢 子 |
笹鳴もせずに地に下り餌求め | 内 田 邦 夫 |
陰雪を砕きて昼の晴を呼ぶ | 今 井 秀 昭 |
そろへ菜の季節となりて元気満つ | 今 泉 京 子 |
冴ゆる夜の写経に鉄瓶鳴りにけり | 川 田 五 市 |
新雪に踏み入る跡を振り返り | 西 田 満寿子 |
七草の水にほどけし青さかな | 水 戸 華 代 |
胸骨のひびに響かぬやうくさめ | 立 花 憲 子 |
供花となり葉も実も匂ふ黄千両 | 木 谷 美 以 |
点袋去年の額の疎覚え | 新 井 のぶ子 |
途中からは樹氷の続くスキーかな | 渡 辺 美和子 |
祝木を割る里の庭晴れ渡り | 大 塚 諄 子 |
退院の雪の白さを一歩踏む | 村 田 昇 治 |
冬麗の空濁りなく嘘つけず | 中 島 兎 女 |
短日や人なつかしく外(と)に出でて | 早 水 淑 子 |
湯気立てて曇り硝子の中に老ゆ | 栄 牧 子 |