五岳集句抄
柿一つそれぞれ持ちて句会果つ | 今 村 良 靖 |
子を取つてしまへば茗荷なほざりに | 但 田 長 穂 |
方言の耳にやさしく酔芙蓉 | 藤 美 紀 |
厨窓煮炊きにけぶる十三夜 | 野 中 多佳子 |
つなぐ手を大きく揺らし七五三 | 荒 田 眞智子 |
一服の腰をあげたる鵙のこゑ | 秋 葉 晴 耕 |
月代や稜線の雲うごきけり | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
誕生日ですよと風の金木犀 | 青 木 久仁女 |
銀杏を踏みたる靴の並ぶ通夜 | 太 田 硯 星 |
落石の音遥かなる秋日和 | 山 元 誠 |
逆縁の柩花野の奥へ奥へ | 成 重 佐伊子 |
ハンガーに重しや吊し柿の十 | 菅 野 桂 子 |
野紺菊わが故郷の風の色 | 脇 坂 琉美子 |
秋深し追伸と書く手暗がり | 明 官 雅 子 |
灯を消してひとりに大きすぎる月 | 二 俣 れい子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
纏うは朝霧か夕霧か。地理的には山霧、はたまた都市霧か、などと考えさせられる楽しさがある。沈潜した霧の語感であるだけに「若返りつつある思ひ」との表現には虚を衝かれる。「霧まとひ」が五里霧中とはならず逆に若返るとは新鮮な感覚と言わねばならない。霧に惑うことなく突き進んだ若い時の体験が根底にあろうか。霧に濡れた凛々しい横顔が浮かぶ。
<主宰鑑賞>
とにかく碁敵と良夜との取合せが愉快である。選りに選って良夜の晩に黒白の修羅を演じるところに諧謔精神がある。ユーモラスな響きの「碁敵」が「一勝一敗」とあって仲のいい雰囲気も出ていよう。碁盤を離れずに対戦をあれこれと振り返っている両者を、満月の方が覗き込んでいるようにも。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
群れをなして稲田に集まる稲雀。脅かすつもりはないのに一斉に大慌てで飛び去る用心深さである。この句では数多の稲雀が何ら案ずることなく稲穂を啄んでいる様子がありありと浮かんで来る。豊かな田園地帯の宜しさを思う「朝な朝な吾を起こしに」にユーモアと優しさがある。その賑やかな鳴声と羽音。見ていない稲雀を詠みながら映像効果も十分に。
秋蝶の羽音や風をさそふかに | 磯 野 くに子 |
いくたびも同じニュースを夜の長し | 斉 藤 由美子 |
厳しさの裏はやさしさ濃竜胆 | 倉 島 三惠子 |
朝コーヒー色なき風を身に受けて | 田 村 ゆり子 |
子の打ちし土こまやかや大根まく | 寺 崎 和 美 |
長靴と甘藷ぶら下げてランドセル | 五十嵐 ゆみ子 |
悩みごと一つかかへて落葉道 | 稲 山 規 子 |
萩刈りて今日より違ふ風の色 | 釜 谷 春 雄 |
荒庭を逃れむとてかこぼれ萩 | 山 森 利 平 |
木犀の香に沈みたる御堂かな | 松 田 敦 子 |
椅子の背の衣類数多や秋暑し | 川 渕 田鶴子 |
黙々とスマホタッチの夜長かな | 小 西 と み |
たゆたひし光の中に赤のまま | 石 﨑 和 男 |
今日も無事明日へと菜虫身を隠す | 堺 井 洋 子 |
籾殻を焼くや少年老いてなほ | 片 山 敦 至 |
もう一丁コーチのノック秋夕焼 | 仕 切 義 宣 |
藤の実や風に愁ひをこぼすかに | 遠 藤 千枝子 |