五岳集句抄
雨樋に安住を得し草の花 | 今 村 良 靖 |
秋麗や課外授業の画布並び | 藤 美 紀 |
小鳥来る昼夜たがへし母の窓 | 野 中 多佳子 |
あつけらかんと愚痴聞き流す秋の雲 | 荒 田 眞智子 |
差し入れのコーヒー薫る夜なべかな | 秋 葉 晴 耕 |
夕さりの冬瓜透くまで煮て故郷 | 浅 野 義 信 |
青嶺集句抄
あめ色の柱老舗のとろろ汁 | 青 木 久仁女 |
秋蝶の風もたのみて花蕊へ | 太 田 硯 星 |
ゆつたりと雲は赤城に秋薊 | 山 元 誠 |
氷菓舐むひとつやいとの門前に | 成 重 佐伊子 |
氷見の産よく噛みしめて栗御強 | 菅 野 桂 子 |
うなづきて聴きあふ法話秋澄めり | 脇 坂 琉美子 |
髪切つて木犀の香を総身に | 明 官 雅 子 |
封筒の耳切る窓辺金木犀 | 二 俣 れい子 |
明日手術月のゆがみも見納めと | 岡 田 康 裕 |
警報器の青き光の夜寒かな | 小 澤 美 子 |
高林集句抄
<主宰鑑賞>
「野分の風」を略した「野分」。現代では台風にあたるが、「野分」は強い風が主体である。そうした恐い「野分の夜」とは相容れない「ふかみどり」が何とも印象鮮明で引かれるものがある。外の野分とは裏腹に、野のありたけの緑を練ったような舞台で演じられる夢の芝居は如何なるものか。野分の不安を吸い込むような「ふかみどり」の世界なのであろう。
<主宰鑑賞>
各地の観光名所で人力車が増えているようである。車夫という言葉も、息を吹き返して来たから面白い。乗っていないが、映像ではお馴染みの人力車。ふわっと浮き上がるように快走する感覚を想像するが、軽やかに走る車夫の足音までは思い至らない。その足音に呼応するかに鰯雲が静かに流れる。
衆山皆響句抄
<主宰鑑賞>
季語的にも面白い一句。先ず「草引く」そして「虫の声」しかも「昼の虫」。さらに「秋の声」を感じる方もあろう。そもそも詠む対象が季重なりだが、主題は「隣家の虫の声」。屈んで草にも虫にも近いから、何時しか「隣家の虫の声」に耳を澄ましている自分に気付くのであろう。当方の虫の声と聞き分けても居ようし昼夜の声の違いもあって興味は尽きず。
二三段下りて洗ひ場小川澄む | 金 山 千 鳥 |
三千歩杖を持たずに花野来て | 八 田 幸 子 |
早稲の香やいち病秘めて立話 | 北 島 ふ み |
萩のみち薬師如来へ引き返す | 島 田 一 子 |
石段を犬に引かるる風の色 | 片 山 敦 至 |
秋蝶の翅忙しなし路知るも | 大 和 斉 |
奥の草残るは虫を聞くためか | 中 村 伸 子 |
樹々の間に足止めて聴く秋の声 | 斉 藤 由美子 |
田圃から家まで袖に蜻蛉かな | 柳 川 ひとみ |
金木犀互ひの庭を語り合ふ | 細 野 周 八 |
静けさをひとりじめして昼の虫 | 加 藤 雅 子 |
溝蕎麦や記憶の中の曲り角 | 民 谷 ふみ子 |
小鳥来る午後から開く茶房かな | 松 田 敦 子 |
虫鳴きてひとりの夜を持て余す | 多 賀 紀代子 |
視界開け脚を引きずる狐かな | 船 見 慧 子 |
夕暮の足音迫る落葉径 | 髙 田 賴 通 |
頰紅を差し合ふ子らや秋祭 | 小 峰 明 |